近年、サイバー攻撃の手口が巧妙化する中で、「取引先を踏み台にする」サプライチェーン攻撃が増加しています。
サプライチェーン攻撃においては、どれだけ自社のセキュリティ対策を強化しても、取引先の小さな脆弱性が命取りになりかねません。
この喫緊の課題に対し、経済産業省が主導し、サプライチェーン全体のリスクを統一的な基準で管理・評価する新たな制度の構築が進められています。
本記事では、2026年度の開始を目指す「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(※以下、サプライチェーンセキュリティ対策評価制度)」の目的、仕組み、そして企業が今すぐ着手すべき具体的な準備について、分かりやすく解説します。
※本記事の内容は2025年4月14日時点の公表情報「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度構築に向けた中間取りまとめ」に基づいており、今後の検討により内容が変更される可能性があります。
【本記事で得られる情報】
★「サプライチェーンセキュリティ対策評価制度」の基本情報
★企業がとるべき対応
【目次】
- サプライチェーンセキュリティ対策評価制度とは?
- なぜ新制度が必要なのか?現状の二つの大きな課題
- 評価制度の仕組み:「星(★)」による成熟度の分類
- 新制度が企業活動に与えるメリットと影響
- 2026年度の制度開始に向けて企業がすべきこと
- まとめ:セキュリティは「評価」される時代へ
1.サプライチェーンセキュリティ対策評価制度とは?
サプライチェーンセキュリティ対策評価制度は、サプライチェーンを構成する企業が実施すべきセキュリティ対策の水準を段階的に定義し、その実施状況を統一された基準で評価・可視化する(星などで格付けする)ための仕組みです。
これは、発注企業と受注企業の間に存在する「セキュリティ水準のギャップ」と「評価の非効率性」という二つの大きな課題を解決するために考案されました。
制度の主な目的
- 対策水準の明確化
企業のサプライチェーンにおける重要度に応じて、どの程度のセキュリティ対策が必要かを明確に示します。
これにより、企業は「何をどこまでやればいいのか」を把握しやすくなります。
- リスクの可視化と取引の効率化
取引先が統一基準で評価された「セキュリティ対策の達成度(★マーク)」を取得することで、発注企業は外部からそのセキュリティリスクを客観的に判断できるようになります。
これにより、個別の煩雑なチェックが不要になり、取引の効率化に繋がります。
- 社会全体のセキュリティ底上げ
すべてのサプライチェーン企業に対し、段階的にセキュリティレベルの向上を促すことで、日本経済全体のデジタルインフラの安全性を高めます。
2.なぜ新制度が必要なのか?現状の二つの大きな課題
これまでのセキュリティ対策における課題は、主に「個別最適化の進行」と「評価の非効率性」にありました。
課題1:セキュリティ水準の個別要求と負担
発注企業が取引先(受注企業)に対し、個別に異なるセキュリティ対策やチェックリストへの回答を求めるため、受注企業は膨大な手間とコストをかけて対応しなければなりませんでした。
→ 統一的な基準がないため、多大なリソースが無駄に消費されていた。
課題2:リスクの「ブラックボックス化」
発注企業は、取引先のセキュリティ対策が本当に十分なのかを外部から客観的かつ定量的に判断することが困難でした。
→ 取引先の潜在的なリスクが「見えない状態(ブラックボックス)」だった。
この新制度は、企業間のセキュリティ対策を標準化し、統一的な指標で可視化することで、上記二つの課題を解決することを目指しています。
3.評価制度の仕組み:「星(★)」による成熟度の分類
この制度は、既に普及している中小企業向けの自己評価制度「SECURITY ACTION」(★1、★2)に続く形で、特にサプライチェーンにおける対策の成熟度を★3、★4、★5の3段階で評価します。
|
評価段階
|
対策の主な内容と位置づけ
|
評価方法 (想定)
|
|
★3 (Basic)
|
全ての企業が最低限実装すべき基礎的な対策。 一般的なサイバー攻撃に対応できるレベルのシステム防御策と体制整備。
|
自己評価
|
|
★4 (Standard)
|
サプライチェーン企業等が標準的に目指すべき対策。 組織ガバナンス、取引先管理、システムの防御・検知、インシデント対応を含む包括的な対策。
|
第三者評価
|
|
★5 (Advanced)
|
サプライチェーン企業等が到達点として目指すべき最高レベル。 高度な脅威に対応し、継続的な改善プロセスに基づいた最新のベストプラクティスを実施。
|
第三者評価
|
企業は、自社が担う役割や扱う情報の重要度に応じて、目指すべき★のレベルを設定することになります。
4. 新制度が企業活動に与えるメリットと影響
この評価制度の導入は、企業に以下のような影響があると考えられます。
4-1.企業活動におけるメリット(恩恵)
メリット1:取引の効率化と機会の創出
統一基準で評価された「★マーク」を持つことで、発注企業ごとに何度もセキュリティチェックを受ける手間が大幅に削減されます。また、高い★レベルを取得していることは、セキュリティを重視する企業との新規取引の機会にも繋がります。
メリット2:自社のリスク低減と防御力向上
制度の要求事項(★3、★4の対策項目)は、現在のサイバー脅威に対応するために必要な実践的な項目で構成されています。これに沿って対策を進めることで、自社のセキュリティレベルが客観的に向上し、インシデント発生の確率を低減できます。
メリット3:法令遵守(コンプライアンス)の証明
今後、政府調達や重要インフラ分野において、この評価制度がセキュリティ対策の要件として活用される可能性が高まります。制度の★を取得すること自体が、社会的な信頼とコンプライアンス意識の証明となります。
メリット4:公的支援や優遇措置の可能性
政府調達における入札要件への活用や、高いランクを取得している企業に対する補助金・税制優遇、サイバー保険の保険料割引などのインセンティブが検討されています。
4-2.企業活動における影響(負担)
一方で、制度の導入は企業に対して一定の「強制力」や「コスト」を伴う変化をもたらします。
対策コストと人件費の増大
特に★4(Standard)以上を目指す場合、外部機関による「第三者評価」が必要になる可能性が高く、その受審費用が発生します。また、体制構築のための人件費やシステム改修費が一時的に膨らみます。
「取引継続」の条件化(実質的な義務化)
発注側から取引において所持しておくべきランクの条件を突きつけられるリスクがあります。
法的な義務ではなくとも、実質的には取引を続けるための「参入障壁」となる可能性があります。
評価維持のための継続的な運用負担
評価は一度取得して終わりではなく、定期的な更新や監査が求められます。
常に最新の脅威に対応し続ける必要があり、現場の運用負荷が常態化する懸念があります。
5. 2026年度の制度開始に向けて企業がすべきこと
制度開始は2026年度を目指していますが、対策には時間がかかります。特に中小企業にとっては、取引機会の維持・拡大のために、早めの準備が求められます。
1. 現状の対策レベルの把握
経済産業省が公開している★3や★4の要求事項案に基づき、自社が現在どのレベルにあるのかを分析しましょう。
2. 対策の「経営課題」化
セキュリティ対策はコストではなく、取引を維持・拡大するための投資です。
経営層が評価制度の重要性を理解し、必要な予算とリソースを確保することが不可欠です。
3. 文書化と体制整備
特に★4で求められる組織的な対策(インシデント対応計画、取引先への指導など)について、文書化と関係部署間の体制整備を先行して進めましょう。
6. まとめ:セキュリティは「評価」される時代へ
本評価制度は、企業が個別にリスクを抱える時代から、サプライチェーン全体でリスクを共有し、協力して防御する時代への転換点を示すものです。
2026年度の制度開始に向けて、企業は自社のセキュリティレベルを客観的に把握し、求められるレベルを達成するための準備を早期に進めることが、今後のビジネスチャンス獲得とリスク回避の鍵となります。
お困りのことがございましたら、お気軽に弊社へご連絡いただけますと幸いです。
本ブログではこれからも、サイバーセキュリティに関する情報を発信していきます。
ぜひブックマークに入れていただき、時々チェックしてみてください!
ご質問やご要望があれば、お気軽にお問い合わせください。
この記事が、サイバーセキュリティ対策に取り組む皆様の一助となれば幸いです。